MENU

【考察】NexTone(ネクストーン)とJASRACの違い──信託と委任、二つの管理思想

nextone-jasrac-difference

本記事は2026年7月時点の一次情報をもとに執筆しています。管理手数料や規約は改定されることがありますので、実際のお手続きの際は各公式サイトの最新情報をご確認ください。記事末尾に出典一覧と改訂履歴を掲載しています。

「著作権の管理団体といえばJASRAC」という認識は、今もこの国でいちばん強い常識です。けれど、もうひとつの選択肢——NexTone(ネクストーン)——について書かれたものは、驚くほど少ない。

理由は単純です。NexToneは長らく「音楽出版社しか契約できない」「演奏権は管理していない」団体でした。個人のアーティストにとって縁のない存在だったのです。

ですが、それはもう過去の話です。

当スタジオの前回の記事では、TuneCore・JASRAC・NexToneの三者を概観しました。この記事では、そこから一歩踏み込み、JASRACとNexToneという「管理団体」同士の違いだけを掘り下げます。契約の思想、手数料の実際の数字、そして両者を併用するという選択肢まで。

目次

第1章:まず、二つの誤解を解いておきます

誤解①「NexToneは法人(音楽出版社)しか契約できない」

これは、いまも広く語られていますが過去の話です。現在、NexToneは個人でも管理委託契約を結ぶことができます。

ただし、無条件ではありません。個人での契約には事前審査があり、過去1年以内に第三者によって作品が利用されている実績(公表実績の条件)が求められます。この点は第3章で詳しく扱います。

誤解②「NexToneは演奏権を管理していない」

これも、かつては正しい情報でした。NexToneは長らく演奏権(コンサート・ライブでの演奏に関する権利)を管理していませんでした。

現在は違います。 NexToneの公式サイトには、コンサート・イベントでの利用申請フローが明記されています。開催5日前までに申請し、開催後5営業日以内に曲目報告を行う——という運用が、すでに稼働しています。

ただし、完全ではありません。フィットネスクラブ、カルチャーセンター、楽器教室での演奏利用については、利用者団体との協議が調整中で、使用料の徴収・分配の開始時期は未定という留保が公式に明記されています。「演奏権はもう管理している。ただし一部の業態は除く」というのが、2026年7月時点でいちばん正確な言い方です。

第2章:契約の思想が、根本から違います

比較表に入る前に、この二つの団体が法的にどう違うのかを押さえておく必要があります。ここを理解しないまま数字だけを比べると、判断を誤ります。

JASRAC ── 信託。権利があなたから離れる

JASRACとの契約は「信託契約」です。契約すると、あなたの著作権はJASRACへ移転します。

権利が移転するからこそ、無断利用があった場合、JASRAC自身が著作権者として訴訟を提起できます。これは信託という契約形態だからこそ持てる力です。

NexTone ── 委任。権利はあなたのまま

NexToneとの契約は「委任契約」における「取次ぎ」です。著作権はあなたのもとに残ったまま、NexToneが利用許諾と使用料徴収の窓口になります。

権利が移転しない代わりに、無断利用があってもNexTone自身に訴権はありません。委任契約という形態上、事業者が自ら法的対応をとることは困難とされています。

この違いが生む、実務上の分かれ道

観点JASRAC(信託)NexTone(委任)
著作権の所在JASRACへ移転著作者本人のまま
管理単位全楽曲(権利の種類単位で除外可)登録した楽曲だけ
無断利用への対応JASRACが著作権者として提訴可能事業者に訴権なし
契約対象著作者・音楽出版社著作者・音楽出版社(個人も可)

「曲を選んで預けたい」ならNexTone、「無断利用に強い後ろ盾がほしい」ならJASRAC。 この一文が、両者の違いのいちばん短い要約です。


第3章:契約するための「条件」を比較する

ここが、多くの解説記事が書き漏らす部分です。どちらも、無条件では契約できません。

JASRACの条件

作詞・作曲した楽曲が、原則として過去1年以内に国内外の第三者によって利用されていることが必要です。自分のライブで自分の曲を演奏しているだけでは対象になりません。自主制作CDの手売りも、自己利用とみなされ対象外です。

NexToneの条件

個人での契約には事前審査があります。審査されるのは契約条件と「公表実績の条件」——過去1年以内に、作詞・作曲した楽曲が第三者によって利用されていること(外国での利用も対象)。加えて、活動の本拠地が日本国内にあること、日本国内の連絡先と送金先口座を持っていること、オンライン手続きが可能な環境にあることが求められます。

つまり、両者は「同じ関門」を持っています

第三者利用実績その他の条件
JASRAC過去1年以内に必要
NexTone過去1年以内に必要国内在住・国内口座・オンライン環境

「JASRACは厳しいが、NexToneなら気軽に個人でも」という理解は、半分だけ正しく、半分は誤りです。個人でも契約できるようにはなったが、審査基準そのものはJASRACとほぼ同じ、というのが正確なところです。

まだ第三者利用実績のない段階のアーティストにとって、両者とも「まだ早い」選択肢です。この段階でTuneCoreが唯一の入口になる理由は、前回の記事で詳しく書きました。


第4章:管理手数料を、区分ごとに突き合わせる

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。JASRACとNexTone、両者の公式な実施料率をそれぞれのPDFから直接突き合わせました。「どちらが安いか」は、一律には決まりません。

使用料の区分JASRACNexTone
演奏会等(通常規模)25%20.0%NexToneが5ポイント安い
演奏会等(大規模・年間興行収入5,000万円超)12.5%12.5%同率
放送・有線放送8.5%8.5%同率
インタラクティブ配信9.5%9.5%同率
オーディオ録音(CD等の複製)6%5.0%NexToneが1ポイント安い
業務用通信カラオケ9%9.0%完全に同率
出版・貸与・映画録音・ビデオグラム区分により21〜25%9.8%NexToneが明確に安い

(2026年7月時点。JASRACは理事会承認により毎年見直されるため、最新の実施料率は公式サイトでご確認ください)

この表から読み取れること

ストリーミング収益が中心なら、手数料はどちらでも同じです。 インタラクティブ配信は9.5%、業務用通信カラオケは9%で、どちらも完全に一致しています。配信・カラオケ収益がメインのアーティストにとって、この二項目に関する限り「どちらを選んでも変わらない」というのが実際のところです。

差が出るのは、コンサート活動とCDプレスです。 通常規模の演奏会で5ポイント、CD等の複製で1ポイント。ライブハウスでの活動が多いアーティストほど、NexToneの料率の低さが効いてきます。

出版・貸与・映画録音の区分は、NexToneが際立って安いです。 ここは映像制作やタイアップに楽曲を提供する機会が多い方にとって、無視できない差です。

ただし、手数料の低さだけで選ぶべきではありません。 前章で見た「訴権の有無」、この後の章で見る「管理地域」を合わせて判断するのが本筋です。安さは一つの軸でしかありません。

第5章:海外での管理は、どちらが強いか

海外収益を考えるとき、両者の体制には差があります。

JASRACは世界の管理団体と相互管理契約を結び、グローバルな管理体制を築いています。2026年6月の分配実績では、外国団体を通じた分配も行われており、長年かけて構築された国際ネットワークの厚みがあります。

NexToneも国内・国外地域の両方を管理対象としており(2022年4月以降の契約者)、欧州の著作権管理事業者との徴収代行契約も締結しています。ただし、契約している海外団体の数と歴史の長さでは、JASRACに一日の長があります。

「海外での実績がまだこれから」という段階なら、どちらでも大きな差にはなりにくい領域です。 差が効いてくるのは、すでに海外での利用が一定量ある場合です。

第6章:自分の曲を、自分で使う場合の扱い

自己利用のルールにも、明確な違いがあります。

JASRACは、プロモーション目的かつ対価を得ない利用であれば、届出によって全作品を無償で使えます。対価を得る場合も、演奏会なら入場料×定員数400万円まで、複製なら2,000枚まで(2025年10月に上限拡大)という規模内であれば、音楽出版社と契約のない作品に限り無償です。届出は使用日の前日までにメンバーズサイトから行います。

NexToneは、自分で演奏した管理作品をCDに録音して販売・配布する場合、価格の有無にかかわらず利用申請が必要です。委任契約だから自由に使える、という理解は誤りです。コンサート・イベントでの利用も、開催5日前までの申請が必要で、JASRACのような「対価を得ない場合は無償」という広い免除規定は確認できませんでした。

無償利用の枠組み
JASRACプロモーション目的・対価なしなら届出で無償。対価ありでも規模内なら無償
NexTone価格の有無にかかわらず利用申請が必要

「委任契約だから自分の曲は自由に使える」というのは誤解です。 ここは実務上いちばん誤解されやすいポイントなので、強調しておきます。

第7章:併用という、第三の選択

JASRACとNexTone、どちらか一方を選ぶ必要はありません。併用が可能です。

NexToneは、他の管理事業者と契約していても契約できます。ただし、委託範囲の13区分を重複させることはできません。たとえば、演奏権や放送はJASRACへ、インタラクティブ配信はNexToneへ、という設計ができます。

JASRAC信託者が一部の権利をNexToneへ委託したい場合、NexToneが「委託範囲変更申込書」を送付し、重複しない支分権についてJASRAC側の契約変更を行う、という流れになります。JASRACとの契約が完全に残っている区分がある場合は、JASRACへの別途手続きが必要です。

併用のメリットは明確です。区分ごとに、より有利な、あるいはより信頼できる先を選べる。 表現を変えれば、JASRACの訴訟対応力と、NexToneの手数料の安さを、両方いいとこ取りする設計です。

ただし、管理の窓口が二つに分かれるということでもあります。分配明細もそれぞれ別々に届きます。事務の手間と、料率差のどちらを取るか、という現実的な判断にはなります。

第8章:切り替えを検討するときの目安

状況検討したい選択
まだ第三者利用実績がないどちらも契約不可。TuneCoreか、登録なしで様子見
コンサート・ライブ活動が収益の中心NexToneの料率が有利。ただし訴権はJASRACに軍配
CD・パッケージ販売が多いNexToneがわずかに有利
無断利用・盗用への対応を重視JASRAC(著作権者として提訴可能)
出版・タイアップ・映像提供が多いNexToneの料率が明確に有利
曲ごとに管理先を選び分けたいNexTone、またはJASRACとの併用
海外実績がすでにあるJASRACの国際ネットワークが厚い

まとめ:安さで選ぶか、後ろ盾で選ぶか

料率表を見れば、コンサート活動やCDプレスが中心のアーティストにとって、NexToneに分があることは数字が示しています。ですが、それがそのまま結論にはなりません。

信託と委任。この契約思想の違いは、平時には見えません。 見えるのは、無断利用が起きたときです。JASRACはあなたに代わって著作権者として戦えます。NexToneは、著作権があなたの手元に残る代わりに、その戦いはあなた自身が担うことになります。

どちらが正しいということはありません。あなたの活動が、どちらの守り方を必要としているか。 数字の裏にあるこの問いこそが、本当の分かれ道です。

そして、二者択一である必要もありません。区分ごとに預け先を選び分ける——という第三の道が、この記事を通じていちばんお伝えしたかったことです。

ご相談はスタジオまで

著作権管理団体の選択は、活動のスタイルによって最適解が変わります。「自分の場合はどちらが合うのか」と迷われたときは、お気軽にスタジオスタッフへご相談ください。

なお、当スタジオではTuneCore・JASRAC・NexToneの使い分け全体を整理した記事もあわせて公開しています。まずどこから始めるべきか迷われている方は、こちらの記事もご覧ください。

出典・参考

本記事の記述は、以下の一次情報をもとにしています(いずれも2026年7月時点で確認)。

JASRAC

  • 管理手数料実施料率(2026年6月分配期以降) https://www.jasrac.or.jp/aboutus/public/pdf/commission.pdf
  • 分配ルールの基本(管理手数料率の具体例) https://www.jasrac.or.jp/aboutus/distribution/rule.html
  • JASRACに著作権の管理を任せるには(第三者利用実績の要件) https://www.jasrac.or.jp/creators/contract/
  • ご自身の作品を自ら利用する場合について https://www.jasrac.or.jp/creators/self-use/
  • 2026年6月分配期における著作物使用料の分配実績 https://www.jasrac.or.jp/information/release/26/260622.html

NexTone

  • 管理手数料実施料率 新旧対照表(2025年3月分配以降) https://www.nex-tone.co.jp/files/commission_comp_20250301.pdf
  • 管理委託契約のお手続き(8つの利用形態・審査条件) https://www.nex-tone.co.jp/copyright/creators/procedure.html
  • コンサート・イベントで利用(演奏権の申請フロー) https://www.nex-tone.co.jp/copyright/users/event.html
  • FAQ(自己利用・JASRACからの委託範囲変更) https://www.nex-tone.co.jp/copyright/faq.html
  • NexToneって個人でも契約できるの? https://note.com/nextone_corp/n/nc154c3f4e78c

改訂履歴

日付内容
2026-07-31初版公開


当スタジオでは、レコーディングからミックス・マスタリングまでトータルでサポートいたします。 質の高い制作環境を保つため「完全予約制」のプライベート空間となっておりますので、周りを気にせずご自身のペースで集中して制作していただけます。

営業時間: 火〜日 10:00 〜 19:00(月曜定休)
[ 制作のご依頼・ご相談窓口【無料】]

nextone-jasrac-difference

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次